リヨンに初雪が降った。
ちょっとホッとした。
昨日の学校の帰り道でのこと。
「寒いね〜」といいながら私は娘と、同級生のジュリアナ、弟アミンの手をひいて歩いていた。
ジュリアナが「明日雪が降るって本当? 」と尋ねた。
「うん、この寒さだときっと降るね」と答えたのだが、
「Tu mens テュ モン (嘘ついてる)」
突然シビアなコメントを受け、何のことかわからなかった私。
「えっ何で?」
彼女は娘にひそひそ耳打ち。
娘が解説してくれた。
「これまでにも、誰かが” 明日はきっと雪が降るよ”って言うのを何回もきいたけど、次の日に本当に雪が降ったことがなかったからだって」
6歳のジュリアナは5人兄弟の3番目。お父さんはマヨットで外交に従事しており、年に数回フランスに来るときと夏休みだけ家族と過ごす。お父さんの来仏はいつも直前でないとわからない。来ると言っていて結局来なかったこともある。
お母さんの携帯のホーム画面にはジュリアナのおばあちゃんが南国ファッションで微笑んでいる。13歳のお兄ちゃんと10歳のお姉ちゃんはマヨットで生まれた。
「マヨットには教育機関が少ないから、子どもたちが高校や大学に進学できるようにフランス本土に来たの」
とお母さんは言う。
初めはマヨットがどこにあるのかもよくわかっていなかった私だが、アフリカ大陸南東にあるフランスの海外県で、インド洋コモロ諸島に属する島である。マダガスカル島からも近い。サンゴ礁の美しい海に白い砂浜。シーラカンスも生息しているらしい。
周辺のコモロ諸島はフランスからの独立国家であるが、マヨット住民はフランス残留を選んだ。フランスからの援助によりマヨットの生活水準はコモロ領の島々よりもかなり高い。
マヨットには近隣諸島から多くの移民が押し寄せる。マヨットで滞在許可を取れば、フランス本土への移住もしやすくなるからだ。
ジュリアナのおばあちゃんはコモロ語のマヨット方言であるマオレ(Maore)語を話す。フランス語は話せないので、おばあちゃんと話ができるようにお母さんが子供達にマオレ語を教えているが、フランスに暮らしながらでは、なかなか身につかないようだ。
ここ数日でリヨンはぐっと冷え込んだ。
ジュリアナのお母さんが手術をして自宅安静のため、1週間ほど娘の通学ついでに彼女の幼い子供達の送り迎えをしている。
ジュリアナの姉、イエルナは10歳だが学年を飛び級して中学校に通っている。しっかり者で、お母さんの手術後はおチビさんたちをお風呂に入れたり着替えさせたり、小さなお母さんとして頑張っている。お兄ちゃんのダリルも、妹イエルナがあまりにもしっかりしていて周囲には彼女の弟と勘違いされつつ、買い物やら、妹弟のお散歩などお手伝いしている。
子供達のお父さんは2週間ほどリヨンに来るそうだが、一体何日に着くのか誰も知らない。一度お会いしたことがあるが、子煩悩で太陽のように朗らかな人だ。家族のために仕事熱心なのもわかる。でも奥さんが大変な時なのだから仕事は後回しですぐに来ればいいのに。
そして彼女には、子供達を旦那様に任せて、できることなら寒いリヨンではなく故郷のマヨットでゆっくり静養してほしい。
そんなことを考えつつ、今日は雪のぬかるみに足を入れたがる子供達にふりまわされながらどうにか彼らの家に到着。
ドアを開けると玄関にスーツケースが。
「何にも連絡がなくて、今日いきなり到着したんです」とジュリアナのお母さんは半分あきれ顔だったが、とりあえずホッとした表情。
太陽のように丸顔で朗らかな旦那様が出て来て、娘に挨拶。
「こんにちは。私は、ダリル、イエルナ ジュリアナ、アミン ファティマのパパです。」
そして、おもむろにほうきを手にすると、玄関前の落ち葉掃きを始めた。
しばらくお母さんは家事育児をお任せして休養できそうだ。
「ちゃんと雪も降ったし、お父さんもきたし、よかったね」と言いながら娘と帰宅すると、うちの夫がテレビで天気予報を見ていた。
まだまだ寒い日々が続きそうだが、明日はとりあえず晴天の模様。
リサ
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