「令和」は英語でBeautiful Harmonyと訳されるそうだ。
ハーモニー(harmony)の語源はギリシャで、宇宙の調和を表すものと聞いたことがある。宇宙の調和を音で表そうとしたのが音楽の始まり。
即位の日の五月一日、私たち一家は春休みで夫の故郷スウェーデンのマルメにいた。
地元のS:t Petri 教会では「マルメ国際オルガンフェスティバル」が開催されていて、ハイテクを駆使したニューオルガンが「聖ペトリ教会の新しいサウンド」として大々的に発表された。
このオルガンは、新たに設置されたパイプの他に、教会に既にある他3台のパイプオルガンにもコネクションされている。
一人の奏者により遠隔操作ができるので、背後のパイプオルガンから音がしていたかと思えば、今度は祭壇の向こう側にあるオルガンから響いてくるといった演出ができる。
普通なら鍵盤の左右にはストップというレバーがいっぱいあってそれを引いて音色を変えるのだが、このオルガンはパネル操作でシンプル。空気量も調節できるので、それまでは難しかった強弱、ヴィブラートのコントロールも可能だ。
マスタークラスで使われたのは、午前中が聖ペトリ教会内の新しいハイテクオルガンで、午後がマルメ博物館内にある16世紀のオルガンであった。
10日間にわたって開催されるコンサートはすべて入場無料。
3人の国際的オルガニストによる2日間のオルガンのマスタークラスもあり、こちらも受講無料と書いてある。
直前に問い合わせてもダメだろうなと思いつつ夫が、フランスでオルガンを習っている息子がきている、と電話すると、一日受講してもいいですよと言う返事。
息子はマスタークラスまで三日しかなかったのであせったらしいが、慌てて最近弾いた曲をおさらいして当日会場に出向いた。
私と6歳の娘は家でお留守番。
娘が兄はどこへ行ったのか聞くので「マスタークラスよ」と答えた。すると「マスタークラス、私も行きたい。ルカ(お兄ちゃんの名前)くんだけずるい」と言う。
「なんでマスタークラスに行きたいの」と尋ねると「だって私もドーナツ食べたいし」
「はぁ?」どうやら娘は、日本で行った「ミスタードーナツ」と「マスタークラス」を混同しているようだ。
娘はじっと座って聴くというのが嫌いなので、演奏会などに連れて行くと大ブーイングなのだが、勘違いしているのをいいことに「じゃ、マスタークラスに行こうか」と言ってみた。
大喜びでいそいそと靴を履いている。
会場の聖ペトリ教会に入ったところで、行き先はミスタードーナツじゃないとわかったらしい。しかもオルガンの音がしている。
娘のブーイングが始まった。アイスクリームを確約したら少しおとなしくなったが、30分と持ちそうもない。
息子は、初めて触れるハイテクオルガンにドキドキ。
「肩に力が入っている、もっと腹から弾け」と言われていた。
たくさんのパイプに空気を流して音を出すオルガンは、巨大な笙と言っていいかもしれない。雅楽の笙は奏者が息を直接吹き込むので、息遣いによりニュアンスが出せそうだが、巨大なパイプオルガンはそうはいかない。(昔の小さなふいご人力送風タイプなら多少の強弱はできるらしい。)
テクノロジーを駆使したパイプオルガンなら今までできなかった細かな表現ができる。このオルガンのための新たな作品が生まれそうだ。
ハイテクだが電子音ではない。パイプに風を送り空気を振動させて音を出すという原理は変わっていない。
日本の神社といえば雅楽の音だが、パイプオルガンは教会の典礼に欠かせない楽器となっている。
神様のいるところにはBeautiful Harmonyがあり、それを私たちにも体感できるようにしているのが音楽なのかもしれない。
リサ
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