今日、12月8日はリヨン「光の祭典」の日です。
本来なら300万人の人出となり、街は華やかなイルミネーションで演出されるはずなのですが、今年は11月13日にパリで同時多発テロが起きたため、大掛かりな祭典は中止、各家庭の窓辺に祈りのキャンドルを灯すこととなりました。
リヨンでは、12月の8日に聖母マリア様に感謝して「Lumignon (ルミニョン)」と呼ばれるキャンドルグラスを窓辺に並べる習慣があります。
リヨンの街は古くからマリア様のご加護があると言われており、流行病や戦争で危機が訪れるたび、人々はマリア様に祈りを捧げてきました。
なぜ窓辺にルミニョンを灯すようになったのでしょう。
それには、こんな経緯があります。
《1852年、人々は9月8日のフルヴィエール礼拝堂のマリア像完成を待ちわびていました。ところが、あいにくの悪天候により像を委託されていた製作所の床が浸水、完成が遅れることとなり、お披露目の式典は12月の8日に延期されてしまいます。
そして待ちに待った12月8日の朝、リヨンは悪天候に見舞われ式典はまたもや中止。待ちきれなくなったリヨンの人々は、各々の家の窓にたくさんのルミニョン(キャンドルグラス)を灯しました。》
数日間に渡りイルミネーションで街を演出する祭典は1999年から始まり、今ではリヨンの一年に一度の大行事となっています。
今年は例年のような大規模な祭典は開催されませんが、人が集まる場所には、自動小銃を持った警察や兵士が警備にあたっています。銃を持った人の横を通るのは落ち着きません。
2015年、フランスでは1月にパリでシャルリエブド事件、11月にはパリ同時多発テロが起きました。
今では子供たちがお稽古事に通う公民館も、セキュリティーの為、入館専用ドアと出口専用ドアが指定され、子供達は入館時間まで親と一緒にドアの前で待機、子供たちが入館した後は外部のものが勝手に侵入できないようにドアが内側から自動ロックされるようになりました。うっかり遅刻もできません。
ボランティアによる外国人のためのフランス語クラスでは、市内の美術館訪問を企画しましたが、まだ滞在許可証のないアルバニア出身の女の子は「人の集まる中心街は警察のコントロールも多いから私は行かない。滞在許可書を持ってないことを指摘されて、なにかあったら嫌だもの」と言って欠席しました。
移民としてフランスに来た人々は滞在許可証を申請するわけですが、書類不備などで何度も却下され、気の遠くなるようなプロセスを辛抱強く歩んでいます。どんなに急いで書類を揃えたとしても、滞在許可証のない期間がどうしてもできてしまいますし、最終的に許可証がおりないこともあります。
そんなとき、先述のアルバニア出身の女の子のように、特にやましいことは何もなくとも、街で警察官に身分証明を求められたらどうしよう、と絶えず漠然とした不安を抱いてしまう気持ちはとてもよくわかります。
シリアから来た18歳の女の子は、現在リヨンのおじさん宅に他の親戚と居候させてもらい、亡命とフランス国籍取得の許可を待っている状態です。ベビーシッターをしながら大学の哲学講座に通っています。
彼女は今年、念願の音楽学校に入校しましたが、住民票がない状態で正規の収入証明がなく、学費の減額申請ができずに断念しました。
収入証明のない人の音楽学校授業料は円にして年間13万円。祖国のご両親が学費を出せる状況でもなく、リヨンのおじさんも居候はさせてくれますが生活を面倒見てくれているわけではありません。
滞在許可証もしくはフランス国籍が取得できれば身分が安定し、仕事も正規契約ができるため収入証明も出せ、彼女の収入であれば音楽学校の授業料は年間2万円弱で済みます。
音楽学校には通えなくても、どうにかして演奏したい彼女は、時間があれば市内のTete d’or 公園にある野外ピアノで練習しています。
反移民政策
11月のパリ同時多発テロで、テロリストの一人がシリア難民として入国していたことが判明し、移民受け入れに難色を示す人が増えたようです。
先日の仏州議会選では、反移民政策を掲げる極右政党「国民戦線(FN)」が記録的な投票率を達成しています。
既に多くの移民が暮らしているフランスにおいて、反移民政策をすることが果たして国内の平穏につながるのか、それは疑問です。
1月と11月に起きたテロの実行犯には、フランス国籍をもつフランス育ちの若者が数名います。テロ事件の後、新聞のあまり目立たない場所に「警察との銃撃戦で死亡したテロリストは、住民登録されている町の公共墓地にひっそりと埋葬された」といった記事が掲載されているのを目にしました。
IS思想に洗脳されテロリストとなり若くして死んだ彼らは、移民2世と呼ばれるフランス人です。
今移民としてフランスに暮らしているファミリーが社会にうまく溶け込んでいけるような政策を徹底するほうが先決かもしれません。
不安な社会情勢にあっても、私たちの日常は今まで通り続いています。
公民館の出入り口セキュリティーが厳しくなっても、親たちは「こんな小さな公民館でそこまでするのは大げさかも」と内心思っているようです。
3歳になった娘が、幼稚園で作ったルミニョンを持って帰ってきました。
12月8日の夜は、私たち一家も娘の持ち帰ったルミニョンを灯して過ごします。
リサ 12月8日 リヨンにて
Comments